本研究のまとめ
・1回目の緊急事態宣言下では社会的孤立と孤独感がパンデミック以前の研究と比較しても顕著に高まっていた。
・男性であること、中年層であること、低所得であることは、社会的孤立を予測し、学生であることは社会的孤立の少なさに関与していた。
・社会的孤立は、オンラインでの親しい人との交流の減少と、マイルドロックダウン下での楽観的思考の減少と関連していた。
・個人的な問題を相談したり、助けを求めたりする相手が男性の方が少ない傾向があり、中年層(40〜64歳)では、友人に関連した社会的ネットワークが希薄になっていた。
本研究成果は,以下の論文にまとめられて,2021年7月14日に国際学術雑誌『BMJ Open』にて公刊されました。
Nagisa Sugaya, Tetsuya Yamamoto, Naho Suzuki, Chigusa Uchiumi
BMJ Open 2021;11:e048380.
doi: 10.1136/bmjopen-2020-048380
現在,追跡調査のデータを用いて本研究知見の続報を執筆中です。
主な結果
この研究では、本邦におけるCOVID-19パンデミックによる緊急事態宣言下での社会的孤立に関連する社会人口学的および心理学的特性を明らかにすることを目的としました。
最初に1回目の緊急事態宣言の対象となった7都道府県在住の10代から80代の男女を対象に、宣言期間の終盤である2020年5月11日〜2020年5月12日にオンライン調査を実施し、11,333人から回答を得ました。
本研究における社会的孤立の有無の判定については、日本語版Lubben Social Network Scale 短縮版(LSNS-6、栗本ら、2011)を用いて社会的ネットワークを測定した結果から行いました。
【緊急事態宣言下の社会的孤立・孤独感】
緊急事態宣言下において社会的孤立と孤独感がともに顕著に高まることが明らかになりました。この点は諸外国で行われたCOVID-19パンデミック下での調査研究と同様です。また、本研究の参加者におけるLSNS-6得点(社会的ネットワーク)および孤独感の得点は、パンデミック以前の研究で報告されたこれらの得点と比較して前者は低い、後者は高いという結果を得ました。
【社会的孤立と関連する因子】
社会的孤立を予測する社会人口学的因子については、男性であること、中年層であること、低所得であること(例:世帯年収200万円未満)は、社会的孤立を予測し、学生であることは社会的孤立の少なさに関与することがわかりました。今回の研究における低所得と社会的孤立の関連性は、COVID-19パンデミック時の先行研究と一致していますが、その他については先行研究で女性の性別や若年層と孤独感との関連性が報告されています。しかし、COVID-19パンデミック以前の研究では、性差に関する結果に一貫性がなく、COVID-19パンデミック以前のいくつかの研究では、女性よりも男性の方が社会的に孤立しやすく、孤独であることも示されています。他の研究では、男性よりも女性の方が孤独である可能性が高いことが報告されていますが、この効果は分析で他の要因をコントロールすると消える傾向にあります。性差に関する結果は、地域や文化によって影響を受ける可能性があり、COVID-19パンデミック下においても同様である可能性があります。
また、社会的孤立は、オンラインでの親しい人との交流の減少と、マイルドロックダウン下での楽観的思考の減少と関連していました。
【LSNS-6の各項目に着目した分析結果】
社会人口学的特徴によるLSNS-6の各項目の比較を行った結果、社会的孤立の性差については、単に会って話す親戚や友人というよりも、個人的な問題を相談したり、助けを求めたりする相手が男性の方が少ない傾向にあることがわかりました。未婚で子どものいない人は、LSNS-6の「親戚」に関する3つの項目で、既婚者および/または子どものいる人よりも低い得点を示しましたが、"友人"に関する社会的ネットワークでは大きな違いは見られませんでした。既婚者/子どもがいる人と、未婚者/子どもがいない人との間で、世帯人数に影響される項目に差があるのは当然であり、この知見がマイルドロックダウンの結果であるとは言いがたいところです。しかし、LSNS-6で実際に社会的孤立の基準を満たした人の数が先行研究に比べて有意に多かったことから、これらのグループにおける社会的孤立はマイルドロックダウン下ではより深刻となった可能性があります。中年層(40〜64歳)では、友人に関連した社会的ネットワークが希薄になっていました。この背景としては、中年層には職場で働く人が多く含まれており、リモートワークにより同僚との交流が減っていた可能性が考えられます。若年層はオンラインでの交流が多く、実際に会えなくてもある程度多くの人とコミュニケーションを保つことができた可能性があります。世帯年収については、すべてのLSNS-6項目において、年収が低いほどソーシャルネットワークが低くなっており、項目ごとの特徴は見られませんでした。
【最後に】
以上の結果は、現在、もしくは将来のパンデミック時に人々が精神的健康を維持するために、社会的相互作用の改善を目的とした介入が必要となる集団を特定するのに役立つ有用なリソースとなることが期待されます。
(文責:菅谷渚)